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1.そのExcelを開いた瞬間、目が泳いだ
新しい職場で渡されたExcelファイルを開いた瞬間、正直、少し固まった。
シート数、約40。
しかも毎月使うのは、そのうちの数枚だけらしい。
右クリックでシート一覧を出し、目的のシートを探す。
まるで迷路の入口で地図を渡されずに歩かされるような感覚だった。
もちろん、作った人には理由がある。
業務は積み重なる。例外も増える。過去を消せない事情もある。
だから責めるつもりはない。
でも思った。
「人間って、意外と非効率に慣れる生き物なんだな」と。
慣れとはすごい。
不便を不便と思わなくなる。
そしてたぶん、それが一番怖い。
2.“気持ち悪い”は、案外才能なのかもしれない
私は昔からこういうものを見ると落ち着かない。
同じデータを何度も入力する。
毎回コピペで摘要を直す。
探すだけで時間がかかる。
こういうのを見ると、頭の奥がザワザワする。
別に正義感ではない。
ただ、気持ち悪いのだ。
服のタグが首に当たるみたいな、
靴の中に小石が入っているみたいな、
そういう小さな違和感が積み重なる感じ。
世の中には、その違和感を感じない人もいる。
むしろそっちの方が多い。
でも私はたぶん、その“気持ち悪さ”で生きてきた。
税理士事務所でもそうだった。
忙しい合間に改善していた。
普通なら後回しにするところを、なぜか先に片付けたくなる。
たぶん私は、そういう性質なのだと思う。
3.改善したい。でも、それが正義とは限らない
昔の私は、見つけたらすぐ直したくなった。
もっと速く。
もっとわかりやすく。
もっとミスなく。
今もその気持ちはある。
でも会社というのは面白い。
正しいことが、すぐ歓迎されるとは限らない。
むしろ、
「今それやる?」
という空気がある。
最初は不思議だった。
でも今は少しわかる。
組織は効率だけで動いていない。
安心とか、慣れとか、順番とか、
そういう見えないものでできている。
改善とは、機械を直すことではなく、
人の流れに手を入れることなのだ。
だから難しい。
そして、少しだけ面倒くさい。
4.それでも私は、たぶんまた直したくなる
こういう話を書くと、嫌なやつみたいだ。
新しく来たくせに文句を言う人。
でも違う。
私はこの会社を面白いと思っている。
古いやり方の中に、
ちゃんと理由が埋まっているのもわかる。
ただ、その上で思う。
もう少し楽にできるのに、と。
人は、楽をするために工夫する。
その積み重ねが文明だったはずなのに、
なぜExcelだけは時々、文明以前に戻るのだろう。
たぶん来月も私は、
またその40枚のシートを見ながら考えている。
どうしたらもっと自然になるか。
たぶんこれは職業病だ。
でも悪い病気じゃないと思っている。
少なくとも、
退屈はしないから。
5.結局、自分だけ先に楽をした
とはいえ、私は聖人ではない。
会社全体を変える前に、
まず自分が楽になりたかった。
だから少しだけ、内緒で手を入れた。
大げさなものじゃない。
改善にかかった所要時間はアイデア出しから実装するまで正味10分くらい。
マクロと、ちょっとした関数。
たったそれだけ。
でも効果は劇的だった。
今まで右クリックで延々と探していたシートに、
一瞬で飛べるようになった。
たぶん一回あたり数十秒の短縮。
でも、これが何十回も積み重なると大きい。
時間以上に大きかったのは、
あの「探すストレス」が消えたことだ。
これが大きい。
仕事って、不思議だ。
時間がかかることより、
小さなイライラの積み重ねの方が人を疲れさせる。
改善って、
壮大な改革じゃなくていいのかもしれない。
ほんの少し、
自分の呼吸がしやすくなるだけでいい。
たぶん私はこれからも、
誰にも気づかれないくらい小さく、
でも確実に、自分の仕事をやりやすくしていく。
そういう小さな反逆を、
私はけっこう気に入っている。
6.これで派遣切りになったら、それはそれで面白い
正直に言うと、たまに思う。
こんなふうに勝手にExcelをいじって、
「この人、面倒くさいな」と思われて、
派遣切りになったらどうしよう、と。
改善って、
歓迎されるとは限らない。
むしろ静かに波風を立てる。
長年そこにあったものを動かすというのは、
思っている以上に人の感情に触れる。
だから少し怖い。
でも最近、こうも思う。
もし本当にそれで切られるなら、
たぶん私はそこに長くいる人間じゃなかったのだろう。
少なくとも私は、
見て見ぬふりをして働くのがあまり得意じゃない。
気づいてしまうし、
気になってしまうし、
直せそうなら直したくなる。
たぶんこの性格は、もう治らない。
でもまあ、それでダメなら次に行けばいい。
53年も生きていると、
終わりだと思った場所が、
案外ただの通過点だったと知っている。
だから今は、
切られるかもしれない未来より、
明日もう少し仕事がやりやすくなることの方が大事だ。













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